真・MFC千夜一夜物語 第430話 MFCの歴史を振り返ろう その6

2024年04月09日

マスフローコントローラ(以下MFC)の歴史に関して振り返っています。
DecoがMFCメーカーから離れ、一介のコンサルタント、エヴァンジェリストとして過ごして10年になります。
これを期にMFCという不思議な工業製品の技術動向をその歴史を俯瞰しながらまとめて行きたいと思います。
今回もMFCの熱式流量センサーの巻線型のお話です。

巻線型の大きな問題点は層流素子バイパス素子ともいう)による分流比の大きな分流を強いられる構造にあります。
マスフローのセンサー構造を説明した上図でわかるように、巻線型流量センサーは必ずしも流体の全量を測っている訳ではありません。
その為、この方式を「巻線型分流測定方式」とDecoは呼称しています。
どんなフルスケール流量のマスフローでも、そのセンサー管に流れる量は入口で分岐され10mL/min程度なのです。
残りの流量は層流素子側に流れています。
層流素子自体は一定の量をセンサー管に正確に分流するという役割を果たしながら、センサー管内部に層流を作る為に、過剰な量の流体をバイパスさせる仕組みです。
なぜならば熱式センサーが正確に流量を測定するためには、センサー管内に層流が生じる状態(層流運動状態)であることが必要条件だからです。

層流時の流速分布は中央部を頂点とした放物線状になります。(ハーゲン・ポアズイユの流れ) それに対して流速が上がって乱流状態になると、流速分布は中央部で均一で側壁部直前で急激な速度勾配が発生する形となります。
乱流状態では、そこで何が起こっているかわからない状態であり、更にその流れがいかなる状態に至るかを予測するのが大変難しい状態なので、熱式センサーの肝である上流から下流への熱の移動が正確行われているか?を捉えるのが難しくなると考えて下さい。

この分流構造では、センサー管が0.35~0.8mm程度の細い管状に設計され、層流素子もそれに準じる管状流路が大量に配置される構造となります。
なぜなら層流と乱流の境界となる臨界レイノルズ数は、下に示した式にあるように流路直径(d)が決定するからです。
そうするとよほど清浄な流体を流さない限り、この分流構造の流路に異物が詰まらないという保証はありません。

異物が詰まるとどうなるか?「詰まって全く流れなくなるなら問題だけど、少しくらい大丈夫。MFCなら自動で流量制御してくれるから・・・」と誤解しがちですが、そうではありません。
分流構造への異物介在はマスフローでも最大クラスのトラブルを発生させてしまうのです。
異物が混入して、センサー管か層流素子の一部の流れを妨げただけで、製品の出荷流量調整時の正常なセンサー管と層流素子との分流比率が崩れてしまい、測定流量と実流量の間に10%以上の誤差が生じてしまうことになります。
MFCは設定値と流量値が一致するように制御しているのみで、流量値と実流量がずれていてもそれを検証する手段は持っていないので、そのまま延々と制御してしまいます。

ある日突然、異物が入り込んだだけで、「カタログ表記で流量精度が何%で・・・」等と議論していた話が吹っ飛んでしまう事態が起きてしまうのです。
それだけでなく大気圧より若干低い負圧領域=Sub-Atmospheric Pressure条件でのMFMの流量器差も指摘されています。
また、構造上、圧力損失が大きくなる問題もありますね。
ダスティな流体を流す用途や、吸引やブロワ等の低圧力損失で大流量を流す用途では、全量測定のインサーションタイプに後れを取る理由は、こういった分流構造に起因するのです。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan