真・MFC千夜一夜物語 第295話 流量とは?流量計とは? その4
差圧式流量計
差圧式流量計に関しては、圧力式マスフロー(MFCとMFMの総称)として、この連載でも解説しています。
測定原理はベルヌーイの定理 を基本として導き出されます。
ベルヌーイの定理とは エネルギー保存則のことです。
下図に一般的な差圧式流量計である絞り(オリフィス)式流量計の例を示します。
流体の流れに絞りを設けた場合、絞りの前の部分のV1に対して、後ろのV2は上昇します。
ですが、エネルギー保存則がある限り、その場にあるエネルギー、つまり流速、圧力、位置エネルギーの総和は等しくなくてはいけません。
配管が水平に設置され、上下流の高さが変わらないという条件ならば、位置エネルギーに変化はないので、残った要素である圧力が流速の変化に応じて、減じられます。
この原理を利用すれば、P1-P2の差圧から流速を導き出せるのです。
流速がわかれば、配管断面積を掛けることで流量を導き出せますね?
差圧式流量計は体積式流量計ですが、本体に流体の密度データベースを持ち、温度圧力により正確な密度を計算させれば、質量流量計として活用することができます。
もう一つ代表的な差圧式流量計に層流(ラミナーフロー)式流量計があります。
下図にあるように層流素子である細管の束を流れる層流状態の流体の流量を細管の上下流の圧力差から算出する方式です。
こちらの検出原理にはハーゲン・ポアズイユ流れの定理が用いられています。
「配管内が層流であるという条件下で、配管抵抗と流体の粘性により配管流路の両端に発生する差圧P1-P2は、流体の体積流量に比例する」という基本原理です。
ハーゲン・ポアズイユの定理に従って記載すると、「体積流量は、配管半径の4乗に比例し、配管入口圧-出口圧=差圧に比例し、配管長さに反比例し、流体の粘度に反比例する」となります。(ハーゲン・ポアズイユの流れとは、まさに層流状態の流れを示します。
層流と乱流はレイノルズ数 約2300 を境とする配管内の流体の状態の事でしたね?)
層流式流量計は、層流を作り出すという条件からして、絞り式と異なり小流量向けです。
高精度な絶対圧センサーと温度センサーを組み合わせることで、質量流量を測定できるという利点が高く評価され、各国の公的機関で標準流量移転用流量計としても使用されています。
層流式流量計にとって重要なのは、測定する流体の粘度を知る事です。
流体の粘度は温度により変化します。
例えばサラダオイルが夏場は比較的サラサラしていても、冬場にはドロっとしてくるのは、温度により粘度が変化しているからです。
粘性は流体の状態や種別により大きく異なる流体固有の物性です。
常温域で粘性変化が大きい流体程、流体温度を正確に測定しないと、測定流量の誤差に影響します。
これは熱式流量計であるマスフローの流量センサーが、測定流体の定圧比熱に左右されるのに似ていますね?つまり熱式と同様流体を固定して、その物性を特定しなくては正確な流量測定ができない流量計なのです。
当然、外部からの温度影響は大敵となるので、温度影響を受けにくい構造=ボディ部の大型化が好ましいです。
熱式マスフローに変わって、ラミナーフロー式マスフローが出現して、半導体製造装置市場で期待されている理由として、熱式センサーのような熱の移動という非常にゆっくりした動きを取らえるのではなく、その10倍以上応答の早い圧力センサーを用いる事での応答特性の改善への期待があったからかもしれません。だが、流量計と言うものは、前述の如く「一つの物理標準ではなく、流れ場を支配する一つ、または複数のパラメータを計ることで、そこから流量値へ変換する」デバイスです。
圧力というパラメータのみで高速かつ正確な流量値を導き出せるわけではありません。
流体の物性に支配される=ガスの流量変換係数であるコンバージョンファクターの信憑性の問題と併せて、今後さらなる改良が期待される方式と言えるでしょう。
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan