真・MFC千夜一夜物語 第498話 再度マスフローの弱点を語りましょう その6

2025年11月25日

本ブログでは質量流量計(熱式流量計、コリオリ式流量計)であり流量をアナログ信号やデジタル信号で出力するマスフローメーター(以下MFM)や、流量信号を基に流量制御を行うマスフローコントローラー(以下MFC)及びその応用技術での流体制御を紹介しています。
本ブログの最初の方でお話ししたマスフロー(MFMとMFC)の弱点解説をリニューアルしていきます。

前回お話ししたように、ユーザーが全く意図しないところで「いきなり供給圧の変化」が起きてしまうと、MFCの弱点がさらけ出されます。
こういった問題への対処方法は種々あります。
対策1はMFCの上流に圧力変動を吸収するバッファー(緩衝材)としてタンクを設置する方法です。

考え方は、河川上流にあるダムと同じですね。
大雨で降水量が増えても、ダムの貯水量の余裕がある分だけは、下流にその影響を及ぼさず耐えられます。
当然ガスと水では圧縮性の有無等、異なる要素もありますが、乱暴に言えばその概略は同じです。
タンクと言っても流す流量により小型の手の平に乗るようなサイズの物から、据え付け型の大きな物まで色々あります。
使用流量と、圧力変動による圧力の上昇/下降幅、タンク下流の配管全体の容積等の要素を鑑みて、サイズを決める事が重要です。

ただガスラインによってはタンクを設置したくない場合もあります。
それは危険なガスをガスラインでプールしたくないといった安全対策や、配管ボリュームを無駄に大きくしてガス置換効率を下げたくない場合です。
その場合の対策は各MFCの上流にラインレギュレーター(二次減圧弁)を設置することです。

ラインレギュレーターの役割は、多系統にガスを分岐した際のライン毎の消費量の変動による圧力降下を緩和する事です。
急峻な圧力変動に弱いMFCですが、緩やかで小さな圧力変動に対しては徐々にバルブ開度を変えることでほぼ影響を受けにくいという特徴があります。
MFCへの急峻な供給圧力変動を緩和する事が対応の肝なのです。

対策3はPI(Pressure Insensitive)もしくはPTI(Pressure Transit Insensitive)と呼ばれる技術を搭載したMFCを使用する事です。
ここではPI-MFCと呼称します。
圧力が急激に変動して困るのなら、供給圧力を圧力センサーでモニターして、ある条件でMFCの流量制御に干渉する機能を持たせればよい"という考えで開発されたMFCでしたね?

制御は以下のフローで行われています。

  • PI-MFCで流量センサー上流に設置したPTの圧力信号をモニターし、急峻な圧力変動が生じた際に警告を出す
  • その警告が出た瞬間から一定時間、MFCは流量センサーと流量制御バルブの比較制御を一時的に停止する。
  • 流量バルブは警報の出る直前の開度でホールドしたまま、警報解除時間が来るまで待機する。
  • 警報解除、もしくは何らかのキャンセル信号を受けて、MFCは流量センサーと制御バルブの比較制御を再開する。

一般的にPI-MFCは図のような構成を取る事が多いです。
この構造のメリットは、MFCとPTをワンユニット化することで、配管システムのフットプリント(専有面積)小型化に貢献できることです。
半導体製造プロセス装置等で使用されるIGS(Integrated Gas System)では、機器を小型化し、それらを配管レスで平面上に集約した特殊なガスパネルが使われるため、逆に急峻な圧力影響を鈍らせてくれるバッファー的な役割を期待できる配管ボリュームが削られてしまいます。
またラインレギュレーターもMFCとの間の配管ボリュームが少ないため効果が減少する。こういったガスシステムでは、圧力変動影響を自ら抑制する機能を持ちながら、平時は圧力センサーとしての仕事もこなせるPI-MFCへの要求が強くなりました。

ただ、PI機能というものは、なかなか条件設定が難しい機能です。
それは何を持って「急峻な圧力変動」と判断するか?と言う部分の定義付けです。
流量制御バルブをホールドして追従させないけれども、だからといってどのような圧力変動が起きても全く追従しないとなれば、それは「温度・圧力が変動しても一定の流量制御ができるMFC」では無くなってしまいます。
ガスライン切り替えなどで生じる急峻な圧力変動だけを見分ける方法として、単位時間当たりの圧力信号の変動量で閾値を設定し、その値以上ならばバルブをホールドさせるという判断をさせる手法が用いられるが、これも「閾値をはたしてどこに置くのが良いか?」と考え始めると難しいところがあります。
「敏感にして(閾値を下げ)頻繁にバルブをホールドさせるのがいいのか?」それとも「鈍感にして(閾値を上げ)あまりホールドしない方がいいのか?」は判断に迷うところなのです。
これはガス配管レイアウトと、ライン切り替えシーケンスに密接にリンクしています。
つまりPI機能付きMFCを開発したMFCメーカーと、配管システムやプロセス制御系を製作する装置メーカーが、密接に情報交換を行って、真に必要なタイミング=MFCの弱点を突かれた時にだけ確実に作動するPI機能の動作条件を作り上げる必要があったのです。

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