真・MFC千夜一夜物語 第494話 再度マスフローの弱点を語りましょう その2

2025年10月28日

本ブログでは質量流量計(熱式流量計、コリオリ式流量計)であり流量をアナログ信号やデジタル信号で出力するマスフローメーター(以下MFM)や、流量信号を基に流量制御を行うマスフローコントローラー(以下MFC)及びその応用技術での流体制御を紹介しています。
本ブログの最初の方でお話ししたマスフロー(MFMとMFC)の弱点解説をリニューアルしておきます。

前回お話ししたような問題は流体比熱からの計算値のみでコンバージョンファクター(以下CF)を求めることや、一つのCFで全ての流量レンジをカバーする事が難しいことを表しています。
メーカーでは厄介なガス種に関しては実ガスデータを取った上で、それをCFとして併用するような動きがあります。
当然前述の危険なガス種で実ガス校正は行えないので、あらかじめメーカーのラボで実ガスを流し得られたデータからCFを設定するという方法です。
多くの場合、それには定積法(PVTt法)を用います。

真空ポンプで真空排気後、ポンプ側ラインを遮断したチャンバーへMFCで窒素ガスを導入する際の圧力上昇速度と実ガスのそれを比較することで、流量比を算出する方法です。各々のガスに対して使用するMFCは1種、流量設定値は同じに固定します。
真空計でチャンバー内圧上昇をモニターし、その所要時間を比較するのです。
要はチャンバーをガスで満たされるまでの時間を測定する訳ですね。
チャンバー容積が一定である限り、導入されたガスの流量比率は、そのまま所定の圧力に到達する時間で判定できます。

ここで気をつけなくてはいけないのはチャンバーの温度です。
恒温槽でチャンバー周囲温度を一定に管理し、尚且つ流入するガスでチャンバーが冷却されないよう、ガス自体もヒートエクスチェンジャー等で予熱するなどの工夫が必要となります。
この温度管理がPVTt法の最重要項目です。
ここをしっかり押さえないと得られた結果が全く無意味になってしまいます。

近年マスフローの制御系がデジタル化し、メモリーを搭載した製品が増加したことから、単一のCFで管理する手法から、マルチCFへと進化が始まりました。
マルチガスマルチレンジ(MGMR)を謳うマスフローのほとんどが、メーカーで窒素vs実ガスのデータベースを構築した結果産まれたものです。
微少流量から大流量まで各々のレンジで基準となるMFC複数種に対して、実ガスデータをPVTt法等で採取し、必要に応じて1ガスに対して複数のCFデータをメモリーさせ、マルチCF化(多点補正)することで実ガス校正に近い流量計測、制御を可能にする技術です。
ただしデータベース構築にかかる設備、人員、時間の投資は莫大であり、メーカーの負担が大きい事が問題です。
リーマンショック後の半導体産業の設備投資縮小によりマスフローメーカーの統合が進んだ背景には、こういった新しいテクノロジーへ対応していく為に必要な高額投資も無視できない要素となっているのです。

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