真・MFC千夜一夜物語 第493話 再度マスフローの弱点を語りましょう その1
本ブログでは質量流量計(熱式流量計、コリオリ式流量計)であり流量をアナログ信号やデジタル信号で出力するマスフローメーター(以下MFM)や、流量信号を基に流量制御を行うマスフローコントローラー(以下MFC)及びその応用技術での流体制御を紹介しています。
このブログの最初の方の記事で取り上げたマスフロー(MFMとMFC)の弱点解説をリニューアルしておきます。
MFCは接ガス部をSUS316L等の耐食性が高い材質で構成できるという利点があり、流量センサーと流量制御バルブ、そして制御系をワンパッケージにしていることで、遠隔自動流量制御が可能であり、その利便性を評価され半導体製造装置を初めとした各種製造用途で用いられています。でも、そんなMFCにもそれ故の弱点も存在しています。
世の中に万能な機械や、故障しない部品は存在しないのです。
MFCが非常に便利な機器であるが故に、その弱点に関しては認識されていない、もしくは忘れられている傾向もあるようです。
MFCを使用するに当たって、その弱点を正確に把握した上で、上手く運用すること、つまりうまく使いこなすことが、最終的なシステムメンテナンスコストの低減へと繋がっていくとDecoは考えていますので、お付き合い下さい。
1.物性不明な流体の正確な流量が測れない!
この弱点に関してはコリオリ式マスフロー以外の、熱式、圧力式全てに当てはまります。
なぜならばコリオリ式以外の方式は、その流量式に流体の物性を含んでいるからです。
例えば熱式流量センサーは流量測定原理に流体の比熱を含みます。
その為、物性が不明な流体に対しては、正確な流量測定ができないとう弱点があります。同じ質量流量計に分類されるコリオリ流量計が、その流量測定原理に流体固有の物性を利用しないのと対照的です。

また、たとえ流体が明確になっていても、数種の流体が混合され、その混合比率が不明確な状態の流体に対しても同様です。
マスフローでは、個々のガスに対してコンバージョンファクター(以下CF)という定数により、基準ガスとする窒素に対する流量比を定義されています。
だが、そのCFも、計算値から乖離した流体や、温度圧力条件で数種類のCFを持つ流体、そして何よりマスフローの内部構造(センサー温度、分流方式)によりメーカー、型式でCFが異なるという性質を持っています。
その為、CFの運用には神経を使わなくてはいけません。
A社とB社のMFCを所有していたとして、あるガスのA社のCFを知っていたとしても、それをB社に適用していい訳では無いのです。
たとえガス種が特定できていたとしても、温度圧力条件によってはCFが変動するものもあるます。
有名な例としてフッ化水素(HF)があげられます。
Deco自身、HFが流体温度の変化に伴いCFが約3倍変化するという試験結果を見たことがあります。100℃近い温度にするとCFはほぼ1で安定するが、常温近辺では0.3~0.4程度であり、100℃までの間はHFの重合状態により、CFはどんどん1に近づくカーブを描いて変化していくのです。
こういった特殊な流体に対して固定した一つのCFを与えるとは難しいのです。
HFは極端な例としても、CFが1から離れた値にある六フッ化タングステン(WF6)や三塩化ホウ素(BCl3)のように一時期の半導体製造プロセスにおけるCVDやエッチャーでのキーとなるガス種でも似たような傾向がありました。
温度を固定したある流量レンジのマスフローの100~2%の制御レンジ内においても100%近辺と、10~20%レベルでCFが異なる現象(つまり1つのCFでは直線性が維持できないという現象)も確認されており、大きな問題となったこともあったのです。
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan & Safe TechnoloGy
