真・MFC千夜一夜物語 第484話 マスフローに関するご質問にお答えしましょう その2
本ブログでは質量流量計(熱式流量計、コリオリ式流量計)であり流量をアナログ信号やデジタル信号で出力するマスフローメーター(以下MFM)や、流量信号を基に流量制御を行うマスフローコントローラー(以下MFC)及びその応用技術での流体制御を紹介しています。
今までに講習会やブログ等で皆様から頂いた質問に答える形で進めていきましょう。
水素と窒素は同じMFCで使えないのか?
MFC講習会で「水素はMFCにとって天敵のようなガスです。」というDecoの解説に「水素と窒素はコンバージョンファクター(CF)も同じくらいなので大きな問題はないのでは?うちでは同じMFCで二種のガスを使い分けできているのに・・・」という疑問を呈されたことがあります。
この解答は「NO.」です。
水素というガスは、空気との混合では爆発下限4%という非常に爆発しやすい性質と、更に拡散しやすい性質を持っており、その可燃性ガスとしての危険度は非常に高いのです。
故にMFCは、できれば専用のものを使ってほしいです。
制御不良でオーバーシュートした水素が大量にリアクターに流れ込むような事態は、大きな事故の引き金になりかねないからです。
水素は密度が小さく、軽くて、拡散しやすい=小さな隙間からでも流れていきやすい性質を持ち、MFCの流量制御バルブにとっては扱い辛い性質です。
水素の物性をマスフローのCF算出のベースとなる窒素と比較してみましょう。
水素は窒素に対して密度では1/14です。
逆に比熱は13.6倍もあります。
この物性の差をMFCで考える場合、単純にセンサーの感度差を表すCFだけを考えていては難しいことがあります。
MFCのもう一つの重要な要素である流量制御バルブのバルブ定数を考えなくてはならないのです。
簡単に結論だけ書くと、水素用のMFCは流量センサーの感度設定は窒素に近くても、バルブの設定(オリフィス径)は10倍異なる設定でなければならないことになります。
つまり水素/100SCCMで製造されたMFCは窒素/100SCCMのMFCとは中身は全くの別物だという事なのです。
現実に窒素用MFCに水素を流した場合、バルブ設定が大きすぎる事になり、制御開始時に水素が大量に突入するオーバーシュートが生じ流量制御異常を起こしやすいのです。
逆の組み合わせの場合は、窒素がフルケール近辺の設定流量まで流れずに、制御が頭打ちしてしまう現象が起きることがあります。

上図を見てください。
先ほど水素用のMFCは、窒素と比べてバルブ部にかなり小径のオリフィスを使っていると説明しました。
当然バルブのリフト量も小さく抑えていて、できるだけ「一気に流れないように」調整されています。
MFCのバルブ自体が他のガスに対してもそうなのですが、バルブをほんの少しだけ開けて、ガスを漏らすように流す傾向があります。
特に水素はその傾向が顕著で、非常にナーバスなセッティングが施されています。
このようなバルブ調整を施してあっても、アクチュエーターで受ける圧力が高くなってくると、少しバルブを動かし過ぎたら一気に大量に水素ガスが流れることになり、その為に容易に制御を失ってハンチングが生じてしまうのです。
バルブの締め切り性能にも期待できず、バルブシートの材質により内部リークが発生してしまうこともあります。
この漏れ量は弁座がSUS等で構成されたメタルバルブでは大きく、次にPTFE等の樹脂、バイトンのようなフッ素ゴム系の順番で小さくなりますが、これに温度変化による線膨張係数を考慮するとSUS-316L 16.4、PTFE 10、バイトン15.8(いずれも記載数値×10-6/ ℃)となるので温度影響を含めると、どの材料でも微妙なところだと言えます。
つまりは水素の漏れを完全に遮断できるMFCは存在しないという事です。
MFCのバルブの役割はあくまで流量コントロールであって、閉止弁ではないのだから、これはやむを得ないところなのです。
こういった拡散しやすい=足の速いガスの制御は、センサーの応答性能に優位性を持たない巻線式センサーを搭載したMFCにとっては鬼門であることを理解しておいてくださいね。
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan & Safe TechnoloGy