真・MFC千夜一夜物語 第483話 マスフローに関するご質問にお答えしましょう その1

2025年07月22日

本ブログでは質量流量計(熱式流量計、コリオリ式流量計)であり流量をアナログ信号やデジタル信号で出力するマスフローメーター(以下MFM)や、流量信号を基に流量制御を行うマスフローコントローラー(以下MFC)及びその応用技術での流体制御を紹介しています。
今回からは、今までに講習会やブログ等で皆様から頂いた質問に答える形で進めていきましょう。

熱式流量センサーを搭載したMFC&MFM(以下マスフローと総称)での流量測定&制御はマイナーな分野です。
それ故にこういったユーザーから質問には、丁寧に応えていきたいと考えています。総集編的な内容にもなりますが、お付き合いください。

質問)毒性ガスにエラストマーシールは使えないのですか?

毒性ガスの代表として「特殊高圧ガス」があります。
半導体製造プロセスで使用されるガスの中から特に危険なガスを特殊高圧ガスと分類しています。
モノシラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)、アルシン(AsH3)、ホスフィン(PH3)、ジボラン(B2H6)、モノゲルマン(GeH4)、セレン化水素(H2Se)の7種類のことです。
これら7種は半導体製造ガスでよく用いられる39種の「特殊材料ガス」の中でも使用頻度が高く危険な可燃性ガス、毒性ガスで、これらの販売、移動、消費に当たっては特別な規制が設けられているガスなのです。
こういったガス用のマスフローはメタルシールモデルで対応するのが常です。
だが、それらのガス自体で腐食しないエラストマーシールも存在しています。
「そういったシール材を使ってリークチェックを厳に行えば毒性・可燃性ガスにも使用できるのでは?」という質問を頂いたことがあります。

答を先に言いますと、それは難しいのです。

高圧ガス保安法 一般則第55条23「特殊高圧ガス、液化アンモニア又は液化塩素の消費設備に係る配管、管継手及びバルブの接合は、溶接により行うこと。ただし、溶接によることが適当でない場合は、保安上必要な強度を有するフランジ接合又はねじ接合継手による接合をもって替えることができる。」に適応した構造のマスフローでなければいけません・・という解になります。
平たく言うと「上記の一般則の解釈を補足するものとして例示基準で示されている接合継手の形状のものであること」になります。
明らかに用いる事ができる継手種としては、食い込み継手、Oリングフェイスシールタイプ継手、フェイスシール継手が挙げられます。(一般工業で用いられるテーパーネジ(RCネジ)は認められません。)

これらは一般的に使用されている上図のような継手で、いずれも"継手の気密がねじ面以外の面で保たれる構造"のねじ接合継手(ネジ部にまでガスが接していない構造の継手)です。
これなら一般的に使用しているから大丈夫だと考えがちだが、ここにはDecoも嵌ったことがある落とし穴があります。
それはMFCボディ側のメスねじ部のシール構造に関してです。
MFCのボディと継手と接続箇所も先の一般則第55条23で認められたねじ接合継手でなければならないのです。下図にありますように、一般的なマスフローで使用している本体と継手を接合する平行ねじ継手はUNFやBSPPタイプで、図の左のようなネジ山の末端にOリングを配置したものです。
これは気密が保たれる場所がねじ部を含んでしまっていることになります。
つまり、ねじ部が接ガスしてしまう作りなのです。

本来ならば、ねじの先端で気密を保つ右のような構造でなければならないのですが、現実に図右のような構造のエラストマーシールのマスフローはまず見かけないのです。
故に難しいですね・・・という回答になるのでした。

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