真・MFC千夜一夜物語 第474話 MFCを取り巻くデジタル通信環境 その5
本ブログでは質量流量計(熱式流量計、コリオリ式流量計)であり流量をアナログ信号やデジタル信号で出力するマスフローメーター(以下MFM)や、流量信号を基に流量制御を行うマスフローコントローラー(以下MFC)及びその応用技術での流体制御を紹介しています。
第470話からデジタル通信の現状に関して解説をしています。
産業用イーサーネット(Industrial Ethernet)は2018年の段階で既に、フィールドバスを凌ぐシェアとなっています。
イーサーネットは、LANで使用されている事もあり、なじみ深いネットワーク規格ですね?
1983年にIEEE802.3として規格化された当初は2.94Mbpsだった通信速度も、1995年には100Mbps、1999年には1Gbps、2002年には10Gbpsとスピードアップして、オフィスや家庭で用いられています。
ただし、産業用イーサーネットは、オフィスや家庭で使われているそれを工場の現場へそのまま持ってきたものではありません。
産業用途では、通信の実行の確実性、つまりある時間間隔内に操作対象機器に確実に通信を実行することを求められます。
従って産業用イーサーネットでは「リアルタイム性」が要求されることになります。
産業用イーサーネットがRTE(Real-Time Ethernet)とも呼称されているのはその為です。
また、生産現場環境は決して良いものではありません。
粉塵防水は当然として、更にオイルにまみれ、高温環境に晒され、ノイズの飛び交う過酷な環境下で使用される事になるのです。
信頼性に関する検証は厳しい条件が要求されます。
産業用イーサーネットは「標準イーサーネット型」と「専用イーサーネット型 又は非標準イーサーネット型」に大きく分けられます。
標準イーサーネット型は、標準のイーサーネット技術を利用し、産業用イーサーネットのプロトコルを実装しているものです。
これはさらにTCP/IP やUDP/IPを利用するものと、高速化のためにTCP/IP処理をスキップしたものに分けることができます。
前者の代表的なものとして、PROFINET , EtherNet/IP (Ethernet Industrial Protocol), Modbus TCPなどがあります。
後者にはETHERNET Powerlink , EtherCAT (Ethernet for Control Automation Technology マスタ) , PROFINET IO などがあります。
専用イーサーネット型は、高速・高精度な同期制御を実現したり、固有の冗長化システムを提供したりするために、専用のASIC(Application Specific Integrated Circuit)もしくはFPGA(Field Programmable Gate Array)を採用しています。
専用型では、TCP/IP通信にはゲートウェイが必要になります。
代表的なものには、PROFINET IRT , MECHATROLINKⅢ , CC-Link IE , EtherCAT(スレイブ), SERCOSⅢ などです。
産業用イーサーネットの通信規格は、国際標準であるIEC規格においてIEC 61784-1/2でまとめられているので、確認してみてください。
ここではその代表としてEtherCATに関して解説しましょう。
EtherCATはドイツのベッコフオートメーション(Beckhoff Automation)によって開発された、イーサーネットと互換性のあるオープンな産業用ネットワークです。
相互互換性を保つことを目的に、2003年に設立された"EtherCAT Technology Group(ETG)よって管理されています。
ETGの加盟企業は国内300社、世界では2400社にも及ぶそうです。
EtherCATの最大の特長は、これまでのフィールドネットワークによく使われていたポーリングや、時分割、ブロードキャストのようなリアルタイム通信方式とは"全く異なるリアルタイム通信方式"を採用している事です。
EtherCATは、ハンドシェイクではないのです。
ハンドシェイク通信とは、相手の処理を待ってから先に進みます。
互いの状態をしっかりつかんで行う手順なので、ハンドシェイク(握手)と呼ばれているのです。
ところがEtherCATでは、マスターから出発するパケットは、全てのスレイブを順番に通過して、最終端まで行ったら折り返して再びマスターへ戻っていくようになっています。
EtherCATでは、これを"1サイクル"とした伝達方法で全入出力処理を終えます。
使用されるイーサネットフレームのデータ部には、スレイブ毎に出力/入力データビットが与えられていて、各スレイブは自分に与えられた位置に送信データを書き込むのです。
フレームから各ノードで受信データの読み込み、送信データの書き込みが完了したら、各スレイブは受信データを読み込むのです。

流れを上図に示します。
従来の通信の流れとは異なる事に気付きますね?
この為、他の産業用イーサーネット(EtherNet/IPやPROFINET)で観られる、スレイブ個々にIPを振り当てて通信を行っているが為に、いくら高速通信対応でも1台のスレイブと通信している間は、他の1台と通信できないといった問題が生じないのです。
つまりEtherCATはその理論上の最高速度 100Mbpsを有効に使えるハイスピードネットワークなのです。
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