真・MFC千夜一夜物語 第455話 コンバージョンファクターという曲者 その5
マスフローコントローラー(以下MFC)やマスフローメーター(以下MFM)でよく使われる言葉に、コンバージョンファクター(以下CF)という言葉がありますね。
ガス種によってはCFが環境条件で変動するものがあります。
有名な例としてフッ化水素(HF)があげられます。
Deco自身、HFが流体温度の変化に伴いCFが約3倍変化するという試験結果を見たことがあります。
100℃近い温度にするとCFはほぼ1で安定するのですが、常温近辺では0.3~0.4程度であり、100℃までの間はHFの重合状態により、CFはどんどん1に近づくカーブを描いて変化していきました。
こういった特殊な流体に対して固定したCF一つで対応するのは難しいと思いませんか?
HFは極端な例としても、CFが1から離れた値にある六フッ化タングステン(WF6)や三塩化ホウ素(BCl3)のように一時期の半導体製造プロセスにおけるCVDやエッチャーでのキーとなったガス種でも似たような傾向がありました。
温度を固定したある流量レンジのマスフローの100~2%の制御レンジ内においても100%近辺と、10~20%レベルでCFが異なる現象(つまり1つのCFでは直線性が維持できないという現象)も確認されており、大きな問題となったこともあったのです。
こういった問題は物性からの計算値のみでCFを求めることや、一つのCFで全ての流量レンジをカバーする事が難しいことを表しており、MFCメーカーでは厄介なガス種に関しては実ガスデータを取った上で、それをCFとして併用するような動きが見られました。当然前述の危険なガス種で実ガス校正は行えないので、あらかじめメーカーのラボで実ガスを流し得られたデータからCFを設定するという方法となります。
多くの場合、それには定積法(PVTt法)を用います。
このブログでもお馴染みになった真空ポンプで真空排気後、ポンプ側ラインを遮断したチャンバーへMFCで窒素ガスを導入する際の圧力上昇速度と実ガスのそれを比較することで、流量比を算出する方法ですね。
各々のガスに対して使用するMFCは1種、流量設定値は同じに固定します。
真空計でチャンバー内圧上昇をモニターし、その所要時間を比較する。要はチャンバーをガスで満たされるまでの時間を測定する訳です。
チャンバー容積が一定である限り、導入されたガスの流量比率は、そのままある圧力に到達する時間で判定できるのです。
ここで気をつけなくてはいけないのはチャンバーの温度です。
恒温槽でチャンバー周囲温度を一定に管理し、尚且つ流入するガスでチャンバーが冷却されないよう、ガス自体もヒートエクスチェンジャー等で予熱するなどの工夫が必要となります。
この温度管理がPVTt法の最重要項目です。
これをしっかり押さえないと得られた結果が全く無意味になってしまうのです。
近年マスフローの制御系がデジタル化し、メモリーを搭載した製品が増加したことから、単一のCFで管理する手法から、マルチCFへと進化が始まりました。
マルチガスマルチレンジ(MGMR)を謳うマスフローのほとんどが、メーカーで窒素vs実ガスのデータベースを構築した結果産まれたものです。
微少流量から大流量まで各々のレンジで基準となるMFC複数種に対して、実ガスデータをPVTt法等で採取し、必要に応じて1ガスに対して複数のCFデータをメモリーさせ、マルチCF化(多点補正)することで、実ガス校正に近い流量計測、制御を可能にする技術です。
ただしデータベース構築にかかる設備、人員、時間の投資は莫大であり、メーカーの負担が大きい事が問題になります。
リーマンショック後の半導体産業の設備投資縮小によりマスフローメーカーの統合が進んだ背景には、こういった新しいテクノロジーへ対応していく為に必要なリソースの枯渇も無視できない要素だったのです。
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan