真・MFC千夜一夜物語 第420話 MFCの応答性能 その2
巻線型熱式流量センサーを搭載したマスフローメーター(MFM)の応答がマスフローコントローラー(MFC)のそれよりも決して早くはない理由のお話です。
まずはおさらいで、熱移動を流量検出原理とする熱式流量計もセンサーが関節接触型の巻線型か?直接接触型のMEMS型か?で感度が異なるお話をしました。
上図にありあますように、熱の移動でセンサーの抵抗値のバランスが傾いた差分をブリッジ回路で取り出すのが、熱式流量計の基本的な構成です。
その差分で得られる信号は相当微弱なものですので、それを後段で増幅したり、直線性を補正したりすることで0-5VDCといってリニアな流量信号へ加工している訳です。
微弱な信号であるが故に、それでも相対的に感度が良いというのはセンサーにとっては良いことづくめなのです。
まず利得が大きいので、SN比がより良い信号を得られます。
SN比は音響関係でよく使われる言葉ですが、シグナルノイズ比(Signal-to-Noise Ratio)の事です。
有効な信号成分(シグナル)と雑音(ノイズ)成分との量の比率のことですね。
シグナル中に含まれるノイズ量の比率を表し、この値が大きいほど信号の品質や機材の性能がよいことになります。
では、MFCの流量信号でノイズとは何でしょうか?
実は皆さんよくご存じのゼロドリフトのことです。
SN比がよい信号は、ゼロドリフトが相対的に少ない事になります。
巻線型センサーから取り出される信号はかなり微弱なので、その分後段での増幅を大きくしないといけません。
困ったことに、そうすることで自ずとノイズも増幅されてしまうのです。
つまりゼロドリフトの量も大きくなってしまうのですね。
ゼロの長期安定性の悪化はMFMやMFCの精度性能の維持に大きな悪影響を与えてしまうのです。
MEMS型の最も美味しいのは、直接流体に触れている事で、応答性が格段に速い事です。
これは巻線型では追いつけない領域です。
前回お話ししたお湯を素手で触るのと厚手のゴム手袋を着けて触るという例え話を思い出して頂ければ、納得いただけると思います。
この応答性の速さを評価して、深堀りRIE(Reactive Ion Etching)=ボッシュ工法の微小流量酸素ラインの制御にMEMS型を使用している装置もあるくらいです。(残念ながら最先端シリコン半導体用のエッチャーではありませんが・・・)
また、エアリークテスターのような微小な漏れ量を素早く完治したい用途は、以前は応答反応が速い差圧式が人気でしたが、最近ではMEMS型の熱式流量センサーを搭載したMFMが見直されたりしています。
こんな優れたMEMS型なのですが、前述のシリコン半導体製造ラインではあまり好かれていない状況で、これには理由があります。
直接流体と接触して測定するというMEMS型の特長が仇になる形なのです。
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan