真・MFC千夜一夜物語 第411話 マスフローに関する誤解 その2
Decoが見聞してきた中で、マスフローメーター(MFM)、マスフローコントローラー(MFC)の使用方法に関して、一般的に大きな誤解があるなぁと思ったものを取り上げてお話ししていきたいと思います。
瞬時流量計であるMFMやMFCを積算流量計として使えるのか?というお話のつづきです。
確かに瞬時流量計の出力から積算流量を求めることは可能です。
ただし、それはあくまで瞬時流量信号の積を計算で求めているだけで、真の意味での積算流量計になったわけではありません。
あくまで目安として用いるものであり、精度・繰り返し性への要求が厳しい積算流量計としての用途には向かないと言えます。
積算流量計として有名な容積式流量計である湿式ガスメーターと比較してみたらすぐわかることなのです。
湿式ガスメーターが、流入してきた気体が液面に設置されたドラムの内部で分割された計測室を満たして回転置換させる事で、入ってきたガスの全量を測定対象とする事からわかるように、積算流量を精度よく管理するにはこの「全て測る」という方法が一番有効です。
それに対して熱式マスフローは不利な要素を多く抱えています。
熱式流量センサーそのものは、対となったセンサーの熱バランスで流量を測定する原理上、その出力は瞬時流量のみに絞られています。
その流量信号をあるサンプリングタイムで取り出した値の積で得られるのは、積算流量ではなく積算カウンターというべき目安である。また、MFCのセンサーは一部微少流量用を除いて、必ずバイパスとセンサー管で構成されており、一部流量のサンプリングによる流量測定なので、積算流量計の大原則「全て測る」という原理に沿っていません。
更に厄介なのは、流体種によるコンバージョンファクター(CF)の存在です。
熱式流量計は、質量流量計でありながら、流体固有の要素である比熱を特定しなくては、正確な流量を導き出せません。
故にガスの組成が不確かなものや、温度、圧力で比熱が大きく変動し、それをマスフローメーカーで把握できていないガス種で使用した際に大きな誤差が産まれてしまうのです。
それでもまだ「瞬時流量値を細かくサンプリングするようにして、なおかつCFが明確な流体ならば使用可能ではないか?」と食い下がられることがあります。
やむを得ず解説するのは、熱式流量センサーの応答性の遅さに関してです。
熱式、特に直接流体に接触しない巻線型の熱式流量センサーは、応答が遅いのです。
熱の移動というものを考えてもらえば、遅くて当たり前です。
「今では1秒以下で応答する高速応答MFCがあるではないか?」との声が聞こえてきそうですが、残念ながらそれはMFCとしての流量制御という目的で作られた応答性であり、センサーとしての応答性能ではありません。(むしろMFCで積算流量をカウントさせた場合は、この作られた応答性も問題だったりするのです・・・)
応答性の遅いセンサーで測定した瞬時流量値を細かいサンプリング時間で集めたところで、そもそもの流量信号が実流量から乖離していては意味が無いのです。
上図は少々デフォルメした形になりますが、実線部が実流量に対して破線部がMFCから得られた流量信号(P.V.)と思って下さい。
この図では次項で触れる予定のランプ制御まで入っているので更に制御波形が大きく乱れる形になっています。
こういった流量チャートでの測定を続ければ続ける程、積算流量の誤差は拡大していってしまうのです。
では、熱式マスフローでどうしても積算を取りたい場合、どうすれば誤差の少ない積算値が取れるでしょうか?
Decoとしてあまりお薦めはしませんが、以下になります。
・積算流量カウンターとしてあくまで目安であると考えること
・プロセスに対するある程度の繰り返し性はあるので、それを前提とすること
・応答の早いMEMS型熱式流量センサーを搭載したモデルを使うこと
・圧力条件が許すならば完全な質量流量計で高速応答性のあるコリオリ式が望ましいこと
・MFCでは流量制御が入る為に不正確になるのでMFMで行うこと
・流量値がほぼ一定で安定したプロセスで使用すること
流量が一定ならば、積算値は不要だろうという意見もあるとは思いますが、それくらい使い物にはならないという事です。
より正確な積算流量を測りたいなら、積算流量計をお使い下さいと言うのが、やはりDecoの考えでなのです。
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan