真・MFC千夜一夜物語 第401話 MFCの流量はなぜずれるの? その5

2023年05月23日

熱式マスフローコントローラー(MFC)のユーザーから、「MFCも流量出力は変化が無いのに、どう考えても流量がずれているように思えるのですが・・・」という問い合わせを頂く事があります。
一つの原因はゼロシフトでしたが、もう一つの問題に関して解説していきましょう。
それは分流比の変化から生じる流量異常です。

今回は分流比のお話の基礎となる乱流層流のお話から始めましょう。
既に何度かお話ししていますが、「層流」に対になる言葉は「乱流」ですね?
小川に清流が流れている状態を思い浮かべてみましょう。
ここに木の葉を流してみると、流れが穏やかなとき(=流速が遅いとき)は、姿勢を乱さずまっすぐ流れていきます。
つまり隣り合った流れの層がお互いを乱さず、整然と流れている様です。
ところが流れが激しくなるとき(=流速が速いとき)は、木の葉はクルクルと回転したり、蛇行したりしながら流れていきます。
これは隣り合った層がお互い不規則に混ざり合って流れる様です。
前者の状態を「層流」、後者の状態を「乱流」と呼びます。

層流時の流速分布は中央部を頂点とした放物線状になります。(ハーゲン・ポアズイユの流れ)
それに対して流速が上がって乱流状態になると、流速分布は中央部で均一で側壁部直前で急激な速度勾配が発生する形となるのです。
乱流状態は隣り合った層がつねに混じり合っている状態と勘違いされますが、必ずしもそうではありません。
層流であろうと乱流であろうと、流れに乱れは生じます。
ただ、層流運動の下では、すぐにその乱れは収まってしまうのです。
逆に乱流状態でも乱れが発生しないこともあります。
だが、その状態でも乱れを起こす要因があれば、即大きな乱れが発生してしまうのです。
要は乱流という状態では、そこで何が起こっているかわからない状態であり、更にその流れがいかなる状態に至るかを予測するのが大変難しい状態のことです。

そのような状態で、熱式センサーが上流から下流への熱の移動を正確に捉えられているかと言えば、難しいとかんがえるべきでしょう。
層流、乱流の区別を付ける指数として用いられているのが、「レイノルズ数(Re)」です。
特に層流状態から流速が上がって乱流になる瞬間を「臨界レイノルズ数(Rec)」で表しています。

MEMS型がシンプルな全量測定や簡単な分流構造で済むのに対して、巻線型は非常に複雑な構造をとっています。流体にセンサー管の外周に巻かれた抵抗発熱体から与える熱を確実に伝え、且つ効率よく奪わせるために各メーカーはセンサー管の内径を0.3~0.8mm程度の細い管状に設計してあります。当然、この非常に細い管中の流れを臨界レイノルズ数以下の層流運動状態に保てる流速は制限され、その結果流量も制限されます。上の式を見れば、円筒の直径(d)がレイノルズ数を決定する事がわかりますね?センサー管内径の違いにより多少の差はあっても、5~20mL/min程度の微少流量しか流せないことになるのです。故にMFCの用途上では98%強の流量域を測定するためには、残りの流量を受け持つバイパスがどうしても必要になります。

バイパスはセンサー管と同じ「差圧対流量」特性を持つ物をフルスケール流量に応じてn本選ぶのが基本です。環境条件に変化があっても、センサーに流れる流量のn倍という一定の分流比を維持しやすいからです。この仕組みを応用すれば、センサー管単独では流せないような大流量にも対応することが可能になるのです。ただし、10L/minを超えるような流量となると、このやり方では途方もない本数の層流素子を必要とすることになるため、メーカーは工夫を凝らして、極力構造を単純化しながらも、分流比を維持できるバイパスモジュールを採用しています。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan