真・MFC千夜一夜物語 第399話 MFCの流量はなぜずれるの? その3

2023年05月09日

熱式マスフローコントローラー(MFC)のユーザーから、「MFCも流量出力は変化が無いのに、どう考えても流量がずれているように思えるのですが・・・」という問い合わせを頂く事があります。
一つの原因はゼロシフトが生じている場合です。
これについて引き続き解説していきましょう。

ゼロシフトの生じる原因は以下の6つでした。

① センサー巻線の抵抗値変化

② ガスの熱対流現象

③ 流量制御バルブでの出流れ

④ ゼロの誤調整

⑤ 設置環境の変化 

⑥ その他 外的要因

今回の問い合わせでは②③④⑥は無いという前提ですので、①から⑤になります。
その中で最も発生しやすいのが①で、巻線型熱式流量センサーに用いられている巻線(ニクロム線)の抵抗値変化が原因です。
巻線型流量センサーは、上流/下流の対になった巻線が、ヒーターと測温抵抗体の役割を果たしており、流量信号を取り出すためのブリッジ回路を形成しています。(ヒーターと測温抵抗体の役割を分離して、上流測温抵抗体、ヒーター、下流測温抵抗体の3つで構成される方式もあります。)この対になる測温抵抗体の測定する温度の平衡状態が、流量=0のポイントです。
ここに流体が流れ込んでくると、上流側の熱を奪って、下流側に運んでいくことになり、バランスが変化します。
この時の上流下流での温度変化量が流量に比例する・・・というのが、マスフローに代表される熱式流量計の基本原理でしたね?

巻線型熱式流量センサーは未だにMFCで最も多く使われているセンサー方式です。上流と下流に同じ抵抗値でバランスするようにブリッジ回路を構成しているのですがが、通電状態では常に100℃近い温度を発熱しているヒーターを何年も使用していれば、当然経年変化が生じます。最後には、抵抗値が無限大=断線状態となり機能喪失が起こります。これがいわゆるマスフローの寿命です。

メーカーによるセンサー方式の差や、巻線の個体差もあり、一概に何年とは定義しにくいものでして、昔は1~2年、最近の製品はメーカーの努力でかなり安定が良くなってきているので、5~8年は断線せずに使えてしまいます。だが、断線に至らずとも、抵抗値変化が上流下流の巻線双方に同じタイミング、かつ同じ量だけ発生するような幸運は、まずありえません。その為、初期の抵抗値バランスはいずれ崩れ、ゼロシフトが発生することになるのです。

この現象への対処方法としては、ゼロ調整用のボリュームや、ゼロリセットスイッチを用いて都度ゼロを再調整する方法があります。ただセンサー巻線の抵抗は継続的に劣化している場合、つまりマスフローの寿命が近い場合、「ゼロ調整しても、しばらく時間が経過するとまたずれる」といった困った状況が生じます。こういった現象が確認された場合、応急処置は都度ゼロの再調整で構わないが、早期にメーカーに修理に出した方がいいですね。そうすればセンサーは新品に交換され、リフレッシュされて戻ってきます。機械にも永遠の命は無いのです。不安要素を抱えたまま運用するより、早期のメンテナンスこそが、大きなトラブルを回避する一番の策なのです。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan