真・MFC千夜一夜物語 第388話 流量制御バルブとアクチュエーター その8

2023年01月31日

マスフローコントローラー(以下MFC) の流量制御を司る流量制御バルブとそのアクチュエーターに関するお話の最終回です。
最後はMFCの流量制御バルブに今後求められる大差圧条件での流量制御のお話です。

MFCの流量制御バルブの適用される圧力範囲は結構広いのです。
低圧、少流量を要求する用途があるかと思えば、片や高圧、大流量を重視する分野もあります。
ところがほとんどのMFCは最大制御差圧が0.3(D)程度で、高差圧になると動作ができません。
最近話題になる水素や、アンモニアといった二酸化炭素の排出量を抑制する新技術に用いられるガスには高圧条件で用いられるものが多いのです。
例えばMFCの一次側が10MPa(G)で、二次側は大気開放状態という差圧10MPa(D)の状況から、流量を制御し始めると下流側の圧力が上昇します。
最終的には二次側が9MPa(G)まで上昇して差圧が1/10の1MPa(D)まで小さくなってしまうという極端な条件での流量制御を求められるプロセスも存在するのです。
こういった用途には従来のMFCの流量制御バルブは無力でした。

そもそも国産MFCは高圧ガス保安法で定義される1MPa(G)未満の圧力定格の製品しか存在していないし、法規的に異なる海外製品で高圧対応が可能なMFC、例えばブロンコストのMFCは40MPaという圧力定格ですが、通常のバルブでは先程のような劇的な圧力条件変化には対応できません。

大差圧流量制御用Vary-Pバルブ搭載MFC F-232M 出典:ブロンコスト・ジャパン(株)

そこでブロンコストが開発したのがVary-Pバルブという特殊なバルブを搭載したMFCです。このバルブは最低差圧6 bar(D)=0.6MPa(D)という条件で、最大差圧400 bar(D)=40MPa(D)までの大差圧制御を可能にしました。
極言すれば二次圧大気開放条件なら、一次圧0.6MPa(G)から40MPa(G)まで上昇しても流量制御が可能なのです。
このバルブの詳細構造は公開されていませんが、Decoの推測では以下のイメージです。

流量制御バルブの二次側に背圧制御弁があり、これの働きで流量制御バルブの一次圧(P1)が変動しても、常にバルブ直近の二次圧(P1')を常に変化させてP1-P1'=一定にしているので、流量制御バルブ自体は設定されたKv値に応じて安定した流量制御が可能なのです。
この構造ならば、P2がどれだけ変化しようと、流量制御バルブには何の影響もないのです。MFCの流量制御バルブと組み合わせて使えるサイズで、流体圧を利用して作動する背圧制御弁を設計する技術力は他の追従を許さないと思います。
Vary-Pバルブは圧力定格40MPa(G)で最小フルスケール10Nml/minから最大フルスケール100NL/minまでのMFCで製品化されています。

MFCの流量制御バルブとアクチュエーターの構造と将来像を解説してきました。
この分野には新規の材料によるアプローチというよりも、既存の流体制御技術の組み合わせ的な要素が強いです。
紹介したブロンコストのVary-Pバルブは、背圧弁との組み合わせで流量制御バルブの前後差圧を一定にしているだけで、決して単独で高差圧から低差圧まで対応できる新たな流量制御バルブを生み出した訳ではないのですが、流体制御で今まで培われてきた技術を熟成させて食い込んだ素晴らしい製品だとDecoは考えます。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan