真・MFC千夜一夜物語 第353話 超高温用マスフローの現状 その1

2022年02月08日

久しぶりに高温用マスフローコントローラ(以下MFC)マスフローメータ(以下MFM)に関して、情報のアップデートをしていきたいと思います。実は最近、高温用途のマスフロー(MFC&MFM)に関する問い合わせが、増えてきているのです。

本来の通常のマスフローが動作保証する周囲温度上限は40~50℃、一般工業用で比較的広い温度範囲を保証するブロンコスト(Bronkhorst High-Tech B.V.)でも70℃が上限です。
それに対して、高温用マスフローは80℃以上、超高温では150℃が守備範囲というのが、10年ほど前までの認識でした。
ところが最近では超高温用で200℃を超え、250℃といった温度環境にも耐えられる製品がリリースされています。
果たしてこれらの超高温マスフローはどういった目的で使用され、どういった構造なのでしょうか?

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高温用マスフローが必要になった背景は、以前このブログで解説したと思います。
昇温しないと気体として流量測定&制御ができない物性を持つ材料(液体、固体)を使用しなくてはいけないプロセスがあるからでしたね?
こういった特殊なプロセスは、主に半導体成膜工程からの要求なのですが、それ以外でも光ファイバー製造や一部の加湿用途等が挙げられます。
常温・常圧で気体ではない材料、蒸気圧(ある任意の温度で気体と固体、もしくは気体と液体の2相が平衡となる圧力)が極めて低い材料を対象としています。

例えば20℃近辺で蒸気圧が1kPaに満たないような流体をMFCで気体として流量制御しようとした場合、制御したい流量値にもよるのですが、MFCと供給系全ての配管、バルブ等の流路抵抗の総和を考えると、それを1kPa未満にするのは現実的には難しいです。

どうしてもこの材料を真空チャンバーへ供給したい!というニーズがある場合、温度を上げ、圧力を下げて蒸気圧を稼ぐしかありません。
高温・真空条件でなら気体としてMFCで流量制御できる可能性が大きくなるのです。
1990年代から、この思想でTiCl4、SiCl4、GeCl4、そして後に層間絶縁膜のCVDプロセスで用いられ名前が知られるようになるTEOS等、昨今のエレクトロニクス産業の半導体や光ファイバー製造で不可欠な材料の高温制御技術が求められるようになり、高温下でも動作できるマスフローへの需要が市場で発生したのでした。

しかし、熱式流量センサーを搭載するマスフローを高温対応させるのは難しいチャレンジでした。
高温用マスフローの流量センサーと常温用のそれの構造自体は同じ熱式センサーであり大差はありません。
センサーは径0.35~0.8mm程度の金属細管に髪の毛ほどの太さのニクロム線を二本ないし三本巻きつけて作られています。
それらをヒーターとして昇温させ、流体がセンサー管内へ流れてくると、上流と下流が奪われる熱量の差とそこを流れる流量が比例関係にあるのを利用して、流量を導き出すという熱式流量計の基本原理は全く同じです。

しかし両者で大きく異なるのは、センサー温度です。
マスフローのセンサー温度は、その方式にもよりますが、通常の常温用巻線型二線式ならば80~100℃といったとろです。
ところが高温マスフローで使用される流体は、優に100℃以上の温度、最近の超高温用途では200~250℃でやってくるのです。
常温用のセンサー温度をはるかに超える高温気体が管内に流入してくるのですから、そのままでは流体の間での熱移動は生じず流量センサーとしての機能を果たせなくなってしまいますね?

その為、高温用マスフローの昇温温度は常温用よりはるかに高く設定されます。
これは熱式流量計の宿命で、測定する流体温度より高い温度にセンサーを維持しなければならないのですが、その事が高温用マスフローの製造ラインでの歩留まりを下げ、ユーザーの手元でのライフサイクルを短くしてしまう悲劇の主要因となってしまうのでした・・・

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan