真・MFC千夜一夜物語 第337話 MFCの健康診断 その6

2021年06月08日

マスフローコントローラー(MFC)マスフローメーター(MFM)の健康診断はどこで受けるの?という質問に対して、そのまま装置に実装された状態で流量を測るという方法があります。

装置でマスフローの流量検定を行える機能、例えばビルドアップ法なのですが、これを実際に運用する上では、各パラメーターの管理が大きな問題になります。
圧力、チャンバー容積、 チャンバー温度と流入するガス温度、 時間 これらを厳格に管理する必要があるのです。
更に加えるならば、ガスの純度や露点管理も挙げられます。
圧力ならば真空計の経年変化は無いか?ですし、「チャンバー容積は変化する事は無い」と思いがちですが、チャンバー内壁に生成物が堆積してしまって、初期より容積は減少しているかもしれません。

一番難しいのが、チャンバー温度を一定に管理することです。
これが最も重要なポイントで、昇圧速度を見るということは、チャンバー容積が一定ならば流入するガスの体積により異なる事になります。
その体積は温度に比例して膨張・収縮します。
流量校正専用の設備ならまだしも、生産に用いられる装置でそれらを厳しく管理して運用するのは落とし穴が多く、Decoも現役時代にユーザーから「装置のビルドアップで流量を測ったら、ずれていたから不良だ!」と返品された個体が、工場で検証しても何ら問題が無かったという困った事例に何度も遭遇しています。

こういった問題が後押しして、イン・サイチュ フロー ヴァリフィケーション(自己流量診断)機能を搭載したMFCが出現しました。
実際にラインを止めずにプロセスガス制御中、もしくはガス制御休止中の短時間で流量を検証するには、PVTtシステムをMFC本体に組み込むことが解であるという思想で作られた製品です。
通常のMFCの機器構成が流量センサーと流量制御バルブ、それと制御回路なのと比べると、ガスシステムに匹敵するような各種機器(閉止バルブ×2、圧力センサー、温度センサー、タンク等)が搭載されていました。

イン・サイチュ フロー ヴァリフィケーション機能を搭載したMFCはインストール時に一度この流量校正モードを起動して、データをメモリーさせます。そのやり方は、以下の流れです。
① MFCの流量制御バルブのフィードバック制御を切り、ある開度で固定する。
② 閉止バルブ1をクローズにして、ガス供給を断つと、タンクの内圧Pと流量信号ROはあるカーブを描いて降下する。
③ 降下し終わるまでの時間tを横軸にとった際のΔPとΣROの値を初期値としてメモリに保存する。
ある程度の期間を設けて、この流量校正モードを健康診断として実施することで、データ収集された値が初期値と一致すれば、MFCの流量測定機能に経時的な変化はないと判定できます。
何らかの差があれば、流量センサーか、もしくは圧力センサーに異常があることになり、どちらにしてもこのMFCは異常を抱えていることが判断できるという仕組みなのです。

ところが初期のイン・サイチュ フロー ヴァリフィケーション機能には、ユーザーから懸念が提示されました。それは「小容量であってもタンクをMFC内に持つことは、デットボリュームをギリギリまで切り詰めてきた、ウルトラクリーン対応MFCとしていかがなものか?」というものです。
そして、「装置からMFCを外さなくても良いが、プロセスの最中には動作させられない」という点では、今までのビルドアップ法と五十歩百歩であるとの指摘もありました。
こういった声を受けてMFC内部流路のボリュームをタンク代わりに使う流量検定機能が提案されたりしています。
しかし、タンク部の容量を小さくしてしまっては、圧力の変化の縦軸は急峻となり、それだけ測定に誤差が生じることにならないでしょうか?
MFCの内部容積に関してNISTでお墨付きをもらっている製品もあり、確かに器差は少ないに越したことは無いのですが、でも繰り返し性の評価であって器差の評価ではないのだから・・・
やはり、それよりもある程度の容量のタンクが無いと成り立たないのでは?とDecoは今でも思っています。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan